MIT、「太陽電池の性能を2倍にする」集光装置を開発 « WIRED.jp Archives
「光の吸収」と「発電」を分け、吸収装置には安価な材料を使うというマサチューセッツ工科大学(MIT)研究チームの研究。太陽発電のコストを下げる方法として有望視され、3年以内の商品化を目指している。
太陽電池について大抵の人が知っていることが1つあるとすれば、それは非常に高額であるということだ。
そして今、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、安価な色付きガラス、および光ファイバー技術の応用によって、太陽電池アレイの性能を2倍にアップさせられる可能性があると考えている。
これは、太陽光集光装置と呼ばれ、既存の太陽電池アレイを覆うような形で取り付け可能だ。この装置は、可視光のうち特定の波長を捕らえ、アレイの端に設置された高電圧太陽電池に送り込む。一方、現在の太陽電池システムの主要なエネルギー源となる赤外線は、この装置を通過して太陽電池に到達する。[コメント欄にある記事筆者の注によると、可視光線対応型のソーラーセルのほうが、赤外線対応型のセルよりも発電量が多いという]
「この装置を既存の太陽電池パネルの上に取り付ければ、最小限の追加費用でシステムの性能をほぼ2倍に増強できる可能性があると考えている」と、研究のリーダーを務めるMarc Baldo氏は述べる。
11日付の『Science』誌で発表される予定のこの新しい研究は、気候の変化や化石燃料価格の高騰などに関する懸念から、新たな関心が集まっている太陽エネルギーの分野をさらに大きく前進させるものだ。
MITが開発したこの新技術は、集光装置と薄膜太陽電池という、太陽エネルギーを活用するうえで最も有望な2つの方法を支える科学技術を組み合わせたものと言える。
ベンチャーファンドから9500万ドルを集めた米SolFocus社をはじめとする各企業は、鏡を利用して、少数の光電池に太陽光を集める方式を採用している。この方式では多くの電力を得られるものの、必要となる太陽追尾式の鏡は価格が高い。一方、太陽エネルギー研究で注目が集まっているもう1つの分野が薄膜太陽電池で、こちらは染料を使って安価なプラスチックに太陽電池を印刷するものだ。
この2つの技術を組み合わせることによって、より安く太陽エネルギーを利用する新たな方法が生まれる可能性がある。現時点での光発電のコストは1キロワット時あたり20セントで、石炭や風力、天然ガスを使った発電よりも数倍高い。
Baldo氏らの技術の研究が進み、今後必ず遭遇するであろう技術的な障害をも乗り越えられれば、太陽光発電による電気の1キロワット時あたりの価格を一般市場価格に近づけるのに役立つだろう。そうなれば、普及が促進されることは間違いない。
「技術的な問題が解決されれば、太陽電池の効率と費用の改善に大きく貢献するだろう」と、米Lux Research社の研究責任者、Marc Bunger氏は述べる。
Baldo氏らが開発した集光装置は、染料でコーティングしたガラスという単純な部品で構成されている。このガラスは、光ファイバーケーブルとほぼ同じ要領で太陽光を誘導することによって集光する。
太陽光は、ガラスを通過する際、ガラスに含まれている染料の分子に吸収される。染料の分子がこのエネルギーを再び放出すると、エネルギーの波が導波管を通ってガラスの端に送られる仕組みだ。
この有機集光装置(染料に炭素が含まれることからこのように名付けられた)は、太陽電池アレイがこれまで抱えていた根本的な問題の解決に役立つ、とBaldo氏は述べている。その問題とは、太陽電池は非常に異なる2つの機能を持つため、まったく違う種類の材料を合わせて用いる必要があるという点だ。
「太陽電池は光を吸収し、電気を作り出すものだ。われわれが試みたのは、この2つの機能を分離することだった」とBaldo氏は説明する。「光を吸収するために、シリコンのような非常に高度な電子材料を一面に貼り付けても意味がない。ペンキをはじめ、光を吸収するものは沢山あるからだ」
「光の吸収」に安価な材料を使うことによって、高い効率でエネルギーを作り出す高価な材料の使用量を大きく減らすことができる。
費用が安くなること以外にも、この技術は「透けて見える」という特徴を持つので、建物や製品に組み込むことができるというメリットがある。デザイナーや建築家にとっては嬉しい話だが、この集光装置を実際に利用する際にそのような使い方が最も効率的かどうか、Baldo氏は確信が持てないでいるという。
「プラスチックに用いれば、丸められる素材ができる。また、好きな色に染めることもできる。この新技術を建築家は大歓迎している」とBaldo氏は述べる。「しかし、技術者の立場で言えば、窓を太陽電池にすることにどれほどの費用対効果があるかはわからない」
この技術は単純で費用も安いため、製造も容易で、3年以内には実用化できるだろうとBaldo氏は考えている。その目標に向け、MITではBaldo氏の同僚たちが、この技術を商用化する目的でCovalent Solar社という会社を立ち上げている。
[日本語版:ガリレオ-平井眞弓/長谷 睦]