植物使う樹脂、量産 三菱化学やクラレ 車部品など向け :日本経済新聞
素材大手が植物を原料に使う合成樹脂や合成ゴムを量産する。三菱化学は8月に専用の樹脂プラントを立ち上げ、2025年に原料の2割を植物にする。クラレも植物由来のゴム生産設備を来年にも稼働させる。植物を原料に、硬い高機能な樹脂を作る技術などの開発が進んできたため、いち早く量産して自動車や電気製品向けの用途開拓を急ぐ。
三菱化学は植物に含まれる糖を原料にした透明樹脂を開発した。黒崎事業所(北九州市)で8月中に稼働する年産5000トンの設備で生産する。自動車部品や電気製品に使う高機能な樹脂に代わる素材として販売する。米バイオベンチャーとも提携し他の石化製品でも代替を進める。
クラレはサトウキビの糖を発酵させた原料からタイヤ添加剤の液状ゴムを生産する。鹿島事業所(茨城県神栖市)にある年産1万トンの既存設備を改造するなど本格生産への準備を進める。
植物由来の原料は環境負荷の軽減と同時に、高値が続く石油の代替にもなる。生産技術の進展で石油由来の素材にない利点も出てきた。素材自体が硬いため傷つきにくくする表面処理が不要になり、用途によってコストを1〜3割減らせる。
三菱化学は合成ゴムの材料となる化合物「ブタジエン」の新製法を開発した。年内にも量産技術を確立する。ブタジエンはタイヤ市場の伸びに伴い需要拡大が見込まれるが、シェールガス(岩盤層に含まれる天然ガス)を使った基礎化学品原料の生産が今後広がると、ブタジエンの原料が不足する問題があった。同社は別の原料を使う技術をブタジエンの安定供給につなげる。
ブタジエンは現在、石油由来のナフサを分解して化学品の基礎原料となるエチレンなどをつくる過程でできる副生物から抽出している。だが米国などで安価なシェールガスを使ってエタンガスからエチレンをつくる動きが加速している。このエチレン製造法ではブタジエンを含む副生物がほとんど出ない。このためブタジエンの代替製法開発が急務になっている。
三菱化学は水島事業所(岡山県倉敷市)のパイロットプラントで「ブテン」と呼ぶ物質を使う新製法の開発を進めてきた。ブテンは石油精製の副生ガスなどに含まれ、現在は回収して燃料として利用する程度。このため、従来型の石油精製が減ってもブテンは十分確保できるという。
同社は独自開発の触媒でブテンと酸素を反応させてブタジエンをつくり出すことに成功。化学各社が研究している代替製法の中でもコスト面で優位だとしている。このほど年5万〜10万トン程度の量産化に向けパイロットプラントを改造。今後データ収集を始め、年内にも量産技術を確立する見込みだ。
三菱化学は新製法を使う量産プラントをまず国内に建設する方針。同社は主力の鹿島コンビナート(茨城県神栖市)のエチレン生産設備を1基停止することを決めており、2014年にはブタジエンの従来原料の供給量が半減する。新製法のプラントは同時期に稼働させるとみられる。
タイヤの世界市場は自動車保有台数の増加に伴い成長が見込まれ、ブタジエン需要も拡大する。富士経済(東京・中央)の予測ではブタジエンの主用途である合成ゴムのスチレンブタジエンゴムの需要は15年に674万トンと10年比4割増える。