東北大、ナノサイズの孔を持つ金属の触媒活性機構を原子レベルで解明。新たな触媒設計に指針 (発表資料)http://bit.ly/NfjHfw pic.twitter.com/ievvRvoc
共同発表:ナノサイズの孔を持つ金属の触媒活性機構を原子レベルで解明 新たな触媒設計に指針
ポイント 従来の「ナノ粒子触媒」は活性機構が不明で設計指針が立たず、量産化やコストに限界 多孔質のナノポーラス金属触媒に着目し最先端顕微鏡で触媒活性の起源を初めて解明 ナノ粒子の欠点を克服し、新機能性材料の高反応収率大量生産が期待されるJST 課題達成型基礎研究の一環として、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の藤田 武志 准教授は、「ナノポーラス金属」の触媒機構を原子レベルで初めて明らかにし、新たな触媒設計に道を開きました。
現在、化学工業分野では、さまざまなナノメートル(nm:10億分の1m)サイズの粒子を用いた不均一系(固体)触媒が主流ですが、使用過程でナノ粒子同士が合体してしまい、5nm以上のサイズになると触媒活性がほとんどなくなるという問題がありました。ところが、触媒の活性機構が不明なため、触媒活性延命の設計指針が立たず、さらに均一ナノ粒子の製造は複雑で量産が難しく高コストであり、反応に必要な助触媒との相性で材料を選ぶ必要があるなどの課題がありました。
そこで今回、ナノポーラス金属(スポンジ状にナノサイズの多孔が空いた金属)の触媒が、従来のナノ粒子触媒と同等の機能を持ち、細孔のサイズが30nm程度でも優れた触媒活性を保つことに着目し、触媒活性の起源の解明に挑みました。
藤田准教授は、高分解能を持つ球面収差補正装置を搭載した透過電子顕微鏡や世界に1台のガス環境セルを備えた超高圧電子顕微鏡を駆使し、ナノポーラス触媒の原子が反応時に動く様子をリアルタイムで観察することに成功しました。その結果、触媒活性は触媒表面の「原子ステップ」と呼ばれる原子レベルの段差と、それと同じ位置に生じる歪みによって起こること、そして触媒表面がファセット化すると活性が落ちることが分かり、触媒活性反応の起源から終わりまでの一連のメカニズムを解明しました。さらに、ファセット化しない合金設計を行い、実際に触媒活性の低下を押さえたナノポーラス金属の作製にも成功しました。
今回の成果によって、ナノポーラス触媒の活性を維持する材料設計に具体的な指針を得ることができました。さらに、ナノポーラス触媒は、合金の腐食のみで作製できるため、量産に適しており合金設計も容易で、助触媒を必要としないため材料の組み合わせを選ばず、また目に見える大きさのため体内に取り込む危険性もないため、既存のナノ粒子触媒の抱える多くの課題を一挙に克服できる可能性があります。
今後は、ナノポーラス金属触媒の高反応収率・高耐久性を追究することで、ナノ粒子触媒に代わる自動車排ガス触媒の創出など、さまざまな新機能性材料への展開が期待されます。
本研究成果は、2012年8月12日(英国時間)に「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域 「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野 秀雄 東京工業大学 フロンティア研究センター/応用セラミックス研究所 教授) 研究課題名 「ユビキタス元素を用いた革新的ナノポーラス複合材料とデバイスの創成」 研究者 藤田 武志(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 准教授) 研究実施場所 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 研究期間 平成23年10月〜平成27年3月
この研究領域では、グリーン・イノベーションに資するべく、革新的な機能物質や材料の創成と計算科学や先端計測に立脚した新物質・材料科学の確立を目指します。
<研究の背景と経緯>ナノポーラス材料としては、これまでゼオライトやシリカゲルをはじめとする微細空孔を持つ無機酸化物系材料を、吸着材、イオン交換材、触媒などとして広く利用してきましたが、細孔のサイズを自在に制御することは困難でした。また、細孔が小さく表面積が大きければ必ずしも良いわけではなく、伝導性も応用には重要な因子となっています。これに対し、ナノスケールの細孔を持つ「ナノポーラス金属」は、脱合金化過程において合金薄膜に対する脱成分腐食条件を調節したり、合金の金属の存在比率を変化させることにより、細孔サイズの制御が可能で、5nmから100nmのナノ細孔を任意に作製できます。
代表的なナノポーラス金属は、30nm程度の細孔がランダムにつながったスポンジ構造をしています(図1)。ナノポーラス金属はひとつながりで、柔軟なネットワーク構造を持っており、金属が持つ良好な電気伝導を生かすことが可能で、これまで培われてきた電気化学技術との相性が良く、ここ10年はナノサイエンスの材料開発の流れと相まって、触媒などの機能性材料として利用しようという試みがなされています。
一方で、化学物質を大量に生産する化学工業分野では、反応装置が簡便なこと、生成物の分離回収が容易であること、耐久性が高いなどの理由から、さまざまなナノ粒子を酸化物などの固体に固定したナノ粒子触媒が触媒研究の主流となっています(図2)。ところが、ナノ粒子の触媒活性については、使用過程で、ナノ粒子同士が合体して5nm以上のサイズになると活性がほとんどなくなってしまうという問題がありました。触媒反応には、その理由を解明するために行われた直接観測の例がありますが、微小な粒子であるため、反応の際に必要な助触媒の影響などにより、その詳細なメカニズムについては明確になっておらず、触媒活性延命のための設計指針を立てることが困難でした。さらに、触媒反応は表面で進行するため、効率向上に表面積を大きくするには、均一なナノサイズの粒子を大量に製造する必要がありますが、その製造過程は複雑であり、量産が難しく、かつ高コストであること、助触媒との相性で材料を選ばなければならないこと、また、ナノ粒子は目に見えないため、取り扱いが困難で、使用過程などで体内へ取り込むことによる人体へのリスクがあります。
これに対し、ナノポーラス金属は孔サイズが30nm程度の大きさでも優れた触媒特性を持っており、大量生産も可能で、助触媒も必要なく、ナノ粒子の欠点を全て克服し得る新たな機能性材料です。ところが、このナノポーラス触媒に関しても、材料設計に必須の「触媒活性」に関わる研究はこれまで手つかずで、そのメカニズムは大きな謎に包まれていました。
図1 ナノポーラス金属の3次元像
代表的なナノポーラス金属の3次元立体図。30nm程度の細孔がランダムにつながったスポンジ構造を持っている。 図2 ナノ粒子触媒の模式図
大きな助触媒(酸化物など)の粒子表面にナノ粒子が分散している。
助触媒はナノ粒子の触媒反応に不可欠だが、その影響もあって、ナノ粒子触媒の
活性機構は明らかになっておらず、また助触媒との相性でナノ粒子の材料を選ば
なければならないという制限があった。
細孔の周りに沿って数多くの原子ステップが存在する。矢印は走査電子顕微鏡の明度
によって観察された原子レベルの各段差を示しており、全体として階段状になってい
ることが分かる。このような場所は、触媒の活性点であることが知られている。
表面に沿って歪みが確認でき、この歪みは原子ステップが引き起こすことが計算に
よって明らかになった。表面の歪みもまた、触媒活性を起こす因子である。
(a)ナノポーラス金属の凹部分の透過電子顕微鏡像。 (b)歪みマップ((a)から計算したもの)。 (c)凸部分の透過電子顕微鏡像。 (d)歪みマップ((c)から計算したもの)。表面に沿って原子ステップと同じ位置 に歪みが確認できる。色は歪みの度合を原子間の距離によって示している。