朝日新聞デジタル:鳥の翼ヒントに弱点克服 小型風力発電機、被災地で活躍
佐藤隆夫さんが開発し、公民館の脇に設置された鳥翼風車=宮城県山元町、佐藤さん提供
鳥の翼にヒントを得た家庭向けの風力発電機が、東日本大震災の被災地で活躍している。開発したのは奈良県天理市の研究者。再生可能エネルギーに注目が集まる中、これまでの発電機の弱点を克服し、量産に向け協力企業を募っている。
津波で2千戸余りが全壊・流失、630人以上が死亡・行方不明になった宮城県山元(やまもと)町。公民館の脇で、直径3メートル、高さ1.5メートルの「鳥翼(とりよく)風車」が回る。起こした電気で住民らはカラオケを楽しんでいる。
垂直に立つ回転軸の周囲に翼を6枚付けた構造。翼は緩やかな曲線状で、薄く軟らかい高分子材の板をブラインド状に連ねている。
開発した天理市の佐藤隆夫さん(66)の知人が震災直後、同町でがれき撤去などのボランティアをした縁で、「復興のシンボルに」と昨年10月に設置した。
佐藤さんは天理市で和菓子店を営む。奈良市の工作機械周辺機器メーカーで設計の仕事をしていた11年前、クリーンエネルギーにひかれ、風力発電の研究を始めた。
小型風力発電機は、風車の直径7メートル未満、出力20キロワット未満。メーカー27社でつくる日本小形風力発電協会(東京)によると、年間約2千台生産され、市場規模は約20億円。市場価格は150万〜1500万円で、2020年には年間3万台の需要を予測する。ただ、協会によると、普及しているプロペラ型は強風時に過回転になり、破損する恐れがあるため、標準的なもので風速15メートルで安全装置が働き、停止する。強い風を発電に使えず、風を切る音も問題だという。
佐藤さんは、無風でも羽ばたいて飛び、暴風にも耐えられる鳥の羽に着目した。カラスやハヤブサを観察すると、上昇する時は羽先を閉じて全面で空気をかいて羽ばたき、強風下では羽先を開いて風を逃がしていた。この特徴を利用して、日本工業大(埼玉県)の丹沢祥晃(よしあき)教授(エネルギー工学)に協力を求め、10年かけて完成させた。
通常は板が風を受け止めて翼を回転させ、暴風の時は板の隙間を自動的に広げて風を逃がす。暴風時も回転を止めないため発電でき、騒音もないという。
平均3メートルの風が吹く場所で発電すると、一般的な家庭が1年間に消費する電力のほぼ半分にあたる1500キロワット時をまかなえる。沖縄県の石垣島で実験したところ、台風の秒速68メートルの暴風下でも発電し続けた。昨年末、国土交通省などが主催した「エコジャパンカップ2011」で将来性ある技術が評価され、環境ビジネス部門敢闘賞に輝いた。
佐藤隆夫さんと、鳥翼風車のイメージ図。「広く普及させて、石油や原子力への依存をなくしたい」=奈良県天理市三島町
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