山下さん、すごいですね!…それにもまして、日本の野菜の種が優れものなのです…これをパリで栽培できたのはとてつもない技術です…同じ種/苗でも日本国内でも地方によって全く別ものになる場合もあります/土壌や天候に左右される「生き物」なのです!
「スター農家」パリ料理界で脚光 食材選びに日本流 :日本経済新聞
日本の大根を栽培する山下氏(パリ近郊)
華やかなスター料理人を輩出する食の都パリで、腕利きシェフに優れた食材を提供する「スター農家」や「スター精肉店」が登場し脚光を浴びている。フランス人がこれまで目にとめなかった「食材」に注目し始めたのは、素材にこだわる日本の食文化の影響がある。
パリの有名シェフたちが今、カブのことを話題にすれば、まず「ヤマシタ」の名前が挙がる。星付きレストランの間で奪い合いになっている高品質の野菜を生産しているのは、パリ近郊の日本人農家、山下朝史さんだ。
パリで予約を取るのが最も難しいとされる三つ星レストラン「アストランス」。ここで華やかに盛りつけられる冬野菜は山下農園でとれたもの。山下さんが季節の野菜を直接納入し、シェフのパスカルさんに調理法を提案する。老舗トゥールダルジャンや同ムーリスの野菜料理も山下農園が支えている。カブ、ネギ、大根、トマト、ホウレンソウ。農園で栽培する野菜の多くは日本で開発された品種だ。
山下さんは「シェフの考えを聞き、それに応えるような野菜を丁寧につくる。秘訣はない」と話す。農場は100メートル四方にも満たない。だが丹精込めて少量生産される40〜50種の野菜は、仏の大量生産品種とは味も香りも異なり、パリのシェフを驚かせている。
パリによくある路上市場。その一角に構える小さな青果店「ジョエル・ティエボー」は格段に長い行列がいつもできる。高級レストラン御用達の店ティエボーの名は、ヤマシタと並ぶパリの野菜のブランドだ。
店で扱うのはティエボーさんがパリ郊外の畑で自ら耕し育てた野菜。80種の野菜を栽培するティエボーさんは「天候、土壌、植物の状態、野菜作りに大切なのは観察と分析」と語る。シェフの意見を聞き栽培方法を工夫するやり方は山下さんと共通する。
テレビの料理番組で優勝した天才料理少年サルファティさんもティエボーで葉野菜を買っていた。「野菜はここと決めている。他店と違って味が濃いから好き」という。
「スターだって? 最近は料理人だけでなく業者まで祭り上げられているようだね」。多くの有名星付きレストランのシェフが素材を買い求めるパリの精肉店「ユーゴー・デノワイエ」の店主、デノワイエさんは笑う。
畜産が盛んな地方の出身のデノワイエさんは15歳から見習いを始めた。8年間は仏中を歩き回り「良い肉を手に入れるためにはそれなりの金額を払う」という考えを理解してくれる畜産農家を独自に開拓した。
質の良い牛だけを直接買い付け、技能の高い食肉処理業者で加工する。肉の味を良くする熟成にも独自の技術がある。「料理人が食材に高い要求をしてくるから質も向上してきたね」。デノワイエさんの著書はベストセラーになっている。
仏のシェフや市民が食材に興味を持ち、農家や青果店などに注目するようになった背景について、料理ジャーナリストのジョスリーヌ・リゴさんは「日本の影響が大きい」と解説する。ソースを重視するフランス人は、これまで食材の質や鮮度にはあまりこだわらなかった。
素材の持ち味をいかし、食材を厳選する調理法は、仏の高級レストランの厨房に入った日本人シェフが広めた新しいやり方とされる。ブームが続く日本の食文化はすしやラーメンにとどまらず、仏料理の調理法をも変えている。(パリ=古谷茂久)
パリで大人気、日本の野菜|食の安全|JBpress
パリ近郊の小さな村に、フレンチのグランシェフたちからのラブコールが絶えない野菜を作っている日本人がいる。その人の名は、山下朝史さん。彼の顧客には、アストランス、ピエール・ガニエール、ジョルジュ・サンク、トゥール・ダルジャン、ズ・キッチンギャラリー、そして日本料理のギロギロといったパリの一流店が名を連ねる。
3つ星レストランの依頼も断る
「フレンチのレストランでは、1つ星が最低ランクです。ウェイティングリストはさらに豪華ですよ」
「オートクチュールの野菜」を作る日本人、山下朝史さん
今をときめくヤニック・アレノシェフのル・ムーリスもその中にあり、最近では、やはり3つ星のブリストルからの依頼も断ったという。
「この間、食事に行った時に、とりあえず日本人だから、シェフに手土産をと思って、うちの蕪を持っていったんです。彼がそれをひとくち口に入れた瞬間、おそらく、4つ5つのレシピが頭に浮かんだような顔をしました。そしてすぐに、1日に15から20個欲しいと言ってきたんですけれど、それはできないので、お断りしました」
ロシア貴族の狩猟用のゲストハウスとして建てられた家↑
パリの3つ星レストランが所望しても手に入らない山下さんの蕪。農園で土から掘り起こしたばかりの蕪を生で食べさせてもらったが、それは、実にみずみずしくてやわらかな弾力があり、しかも密度の濃さを感じさせる食感で、特級のフルーツ以上の上品な甘さが広がる日本種の蕪。
「うちの蕪は1週間に最高で90しか作れない。既に6件ある得意先で分けると、1件当たり15個なんですよ。だから、それ以上はできません。例えば、ジョルジュ・サンクの場合、定休日がありませんから、1日110席を7日間・・・。それだけのお客さんの数に対して、どうやって15個の蕪を分けるか、というくらいなんです」
オートクチュール野菜と命名された
対してフランスの蕪は、山下さんに言わせれば、「しっかり煮ても、口の中に筋が残る」というもの。生で食べてもこれほどに美味しい蕪は、当然のことながら、グランシェフたちにセンセーショナルな感動をもって迎えられた。高名な料理評論家が「奇跡の蕪」と言ったという名物の蕪を筆頭に、山下さんが丹精して作る野菜は、「オートクチュールの野菜」とも形容されるほどなのである。
「好きな時に、好きな野菜を好きなだけ、好きな値段で売るということを了解してくれるところとだけ、取引をします」と、痛快なほどに、彼自身もまた誇り高い。
山下さんが最初にパリで暮らし始めたのは22歳の時。美学を学ぶためだった。実家は東京・中野。会社経営をしている家庭に育ったというから、いわば農業とは無縁な人だったといっていい。
その後、ユネスコやJTBなどで働いたあと、いったん日本に帰国。そして20年ほど前に再渡仏したときに、現在の家と敷地を買う。パリから西に車で40分ほどのところにあるそれは、かつてロシア貴族が、狩りのためのゲストハウスとして建てたものだ。
シラク元大統領の夫人も顧客の1人
家の裏に広がる農園。2000坪の敷地を自分で開墾した
ここで初めは盆栽を作って販売した。前大統領シラク夫人も、彼の顧客の1人だったという。そして、十数年前に日本料理店からの依頼で、野菜作りを始めることになる。2000坪の敷地を自身で開墾しながら、徐々に作物を増やしていった。
「最初からプロ。最初に作ったものから売っていますから、わたしにはアマチュアの時代というものがないんです」と、山下さんは笑う。
しかし、それも10年ほどたった時、最初のきっかけを作ってくれた日本食レストランの経営が変わり、取引をやめた。その際に考え方を変えた。
「もっとモチベーションの高いシェフに使ってもらいたいなと考えました。そう言えば、フランスに住んでいるんだから、フランス料理もあるな、と」
当時のパリの日本食レストランにいわば見切りをつけた山下さんは、フランス料理、それもいきなり3つ星から入る。
「人があんまり住んでいないようなところの小さな農場で、日本人がせこせこ野菜を作っているような場合、まずは最初に隣町のビストロあたりに持って行って、『ちょっと使ってみてください』と。それで自信をつけてパリに行く。パリでも最初はビストロを回って、つぎに1つ星、2つ星、そして最後に3つ星に入れられたらうれしいなと思うのが、普通の考え方だと思うんですよ。でもうちは3つ星から入れていった」
トップのレストランから押さえるには明確な理由がある
グランシェフたちが所望する山下農園の蕪
もちろん、それまでに培ってきたノウハウによって、野菜の美味しさには自信があった。しかし、その大胆な行動は、山下さん一流の考えがあってこそのものだった。
「西洋料理のトップと言えば、フランス料理。その中のトップが3つ星です。それも地方の3つ星よりもパリの3つ星の方がレベルが高い。競争が激しいですから。どの世界でもそうですけれど、トップでい続けるというのはたいへんなことです。特に料理の世界では、レシピに著作権がないから、その店で3年、5年勤めていたら、シェフの味を覚えてしまう。それをそのまま持って行っても誰も文句を言わない、言えない世界なんです」
「言われてみれば、それしか方法ないじゃない、と思うでしょう? でもそういうケースを想定できなかったら、浮かばない考えです。『とりあえずできちゃったから、早く売らなきゃいけないから、簡単なところに置きに行こう』みたいな考えに走りがちでしょう」
「そうすると、トップがトップを守り続けるためには、常にほかの人よりも先に行っていなければならない。そのために、より良い食材とか、より珍しい食材というものを探す。となると、うちみたいなクオリティーを持っていて、普通のマルシェなんかでは買えない野菜というのは、ビストロよりもむしろ3つ星レストランが必要とする野菜なんです」
ゆずやわさびのような日本的な野菜ではなく、普通の野菜で攻める
山下さんの成功の秘訣は、間違いなくこの俯瞰的視野にある。経営者の感覚をはなから持っているということは、彼自身が十分に意識してもいる。そして、彼はさらに続ける。
「フランスのレストランに日本の食材を売ろうと思ったら、ゆずだとか、カボスだとか、わさびだとか、そういうものをやろうとすると思うんですよ。ほんのちょっと入れるだけで、がらっと変わってしまうような。でも、わたしは、そっちにはあんまり興味ない」
目下、パリの朝市が日本人観光客にとってのはずせないポイントの1つになっているという現象を思う時、山下さんの考えはまたしても新鮮だ。フランスの野菜よりも日本の野菜の方がおいしいと言い切れる人は、そうはいない。しかもそれが、グランシェフたちが認めた「オートクチュール野菜」の作者の口から出ているのだから、その言葉の意味は重い。
「今、フランス料理の3つ星とか2つ星くらいまで、わさびを使うようになっています。でも、それをビストロが使うようになったら、3つ星シェフはわさびを捨てますよ。そうじゃなくて、わたしがやりたいのは、蕪みたいなフランスにも普通にあるベーシックなもので、日本の野菜のすごさを見せたいんですよ。だって、美味しくないじゃないですか、フランスの野菜」
そうなると、彼の次なる手をついつい聞いてみたくなって、「これからの展開は?」と質問を向ける。すると
「あー。ジャーナリストはみんなどうして、そんな月並みな質問をするのかなぁ」と、笑ってから「とりあえずね、死んだら、日本の実家の墓に入ることだけは決めているんです。それまでの間は、どうかなぁ・・・」と、軽くいなされてしまった。
山下農園のホームページは
http://a.yamashita.free.fr
山下朝史さん一家。夫人の尚美さんと、地元の幼稚園に通う娘の瑛子ちゃん
参照 (現地での放送アーカイブです)
AsafumiYAMASHITA さんのチャンネル - YouTube
山下朝史 フランスのドキュメンタリー 2/4 - YouTube
山下朝史 フランスのドキュメンタリー 3/4 - YouTube
山下朝史 フランスのドキュメンタリー 4/4 - YouTube