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日本の「ジャスミン革命」と橋下大阪市長のツイッター| nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
日本で静かな「ジャスミン革命」が起きている。それはソーシャルメディアによる新しいデモである。その一方で政治家によるまったく新しい情報発信も行われている。こうした流れを受けて、来るべき選挙では、ネット利用を解禁すべきではないか。
脱原発デモと反安保デモの違い
2010年から2011年にかけて、チュニジアで「ジャスミン革命」(民主化運動)が起き、独裁政権が倒れた。その後、革命は中東に広がり、「アラブの春」と呼ばれる民主化運動も起きている。これらの運動は、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアを活用した草の根の運動と言われる。
2011年にアメリカで起きた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動も、ソーシャルメディアを通して人々が集まった。世界的にソーシャルメディア革命が進行している中、日本だけ取り残されているように見えた。
しかし今、そのソーシャルメディア革命が日本でも静かに発生している。それが総理官邸前で行われている脱原発デモだ。毎週金曜日や祝祭日に開催されており、7月16日には主催者発表で17万人が集まった(警察発表は7万5000人)。
これは今までの日本にはなかった運動である。
日本の歴史上、最大のデモは1959年の第1次安保闘争のときのもので、国会周辺で33万人規模に膨れ上がった。参加人数だけでなく、その中身が決定的に違う。反安保デモは、当時の野党第一党だった社会党の浅沼稲次郎委員長が先頭に立って行われ、党と労働組合によって動員がかけられた。その結果の33万人だったのである。
認識が根本的にズレている鳩山由紀夫氏
しかし今回の脱原発デモは、ソーシャルメディアを通して脱原発に関心を持つ人々が引き寄せられた。主婦が子供の手を引いている姿が見られるなど、自然発生的に行われた。そのデモに対して、「大きな音だね」としか反応できない野田佳彦首相は顰蹙を買うことになった。
私は野田首相以上に顰蹙を買うべき政治家がいると思っている。それは鳩山由紀夫元首相だ。
鳩山氏は、7月20日(金曜)の脱原発デモに参加し、マイクを手にして「首相経験者として皆さんの声を官邸に届ける」と演説したという。その後官邸を訪れたが、野田首相が不在のため、藤村修官房長官に首相がデモ参加者と面会するように求めた。
鳩山氏のこうした行動はさすがに与党内からも「パーフォーマンスが過ぎる」と批判されたようだが、それ以前に、彼の認識は根本的にズレている。
鳩山氏がやろうとしたことは、53年前の浅沼委員長がやったことを再現するようなものだ。しかし53年前と今とでは、デモの成り立ちがまったく違う。脱原発デモは、政治家が先導するような性格のものではなく、ソーシャルメディアを通して一般の人々が自然発生的に集まってくるものなのだ。
政権与党の議員でしかも元首相の鳩山氏は「招かれざる客」だったのである。
脱原発デモが官邸に向かうのはなぜか
脱原発デモについてもう一つ興味深いのは、人々が当初から国会ではなく首相官邸に向かったということだ(7月29日に初めて国会前で行われた)。もちろん反安保デモは法律事項なので立法府である国会に向かったという事情はあるだろうが、私は脱原発デモがあえて首相官邸に向けて行われたことに深い意味を感じている。
国会というのは、政党と政治家がいる場所だ。そこに向かわなかったということは、政党と政治家が相手にされていないことを意味する。
野田首相は、財務省のペースに乗って増税しようとしているし、経産省と東電のペースに乗って原発再稼働を行っている。まさに、政治が霞が関の中に沈んでしまった。だから、霞が関の頂点である首相官邸にデモ隊が向かっているというわけである。実に痛烈な批判と言える。
このように、いかにも日本的な静かな「ジャスミン革命」が起きている一方で、政治家の中にもソーシャルメディアを使って、まったく新しい政治の風を起こしている人がいる。大阪市長の橋下徹氏だ。
私が政府の中にいた時は、週刊誌などに「竹中はアメリカ原理主義だ」「ユダヤ資本の手先だ」と書かれたものだ。それに対して私は当然会見などで否定したが、私の声はなかなかマスメディアには載らない。ほとんど反論の機会がないまま、言いたい放題言われてきたものだった。
ソーシャルメディアで直接発信する橋下大阪市長
ところが橋下市長はまったく違う。ツイッターで、記者などを名指しで徹底的に攻撃する。大学教授たちが批判をしてきたら、「こんな学者がいるからダメなんだ」と名指しで激しく反論する。
政治家がこんなことをするのは初めてだ。橋下市長の攻撃が非常に面白いものだから、ツイッターのフォロワーは79万人以上という驚くべき数に達している。
橋下市長は、マスメディアを通り越して、ソーシャルメディアで直接発信して人気を得ている。考えてみると、これは小泉純一郎元首相と手法が似ている。小泉氏はテレビを使い、新聞を飛び越えて国民に直接発信した。橋下市長は、テレビだけでなくツイッターも使って、市民や国民に直接発信している。
近いうちに総選挙があるだろうが、その時、新しいソーシャルメディアがどのような影響力を持つのか。非常に重要なテーマになってくると思う。
現在は公職選挙法で、ツイッターを含むネットを選挙活動に使ってはいけないことになっている。これは実にバカげた規制だ。
公職選挙法は基本的に国会の総務委員会にかけられる法律であるが、総務省の事務方は関与することができない。つまり、政党間の合意によって、ネット選挙活動が禁止されている。各政党はソーシャルメディア革命の流れを受けて、日本でも選挙期間中のネット利用を解禁すべきである。
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竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
慶応義塾大学総合政策学部教授
グローバルセキュリティ研究所所長
1951年、和歌山県生まれ。経済学博士。一橋大学経済学部卒業後、73年日本開発銀行入行、81年に退職後、ハーバード大学客員准教授、慶応義塾大学総合政策学部教授などを務める。2001年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣就任を皮切りに金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任。04年参議院議員に当選。06年9月、参議院議員を辞職し政界を引退。
現在、慶応義塾大学総合政策学部教授・グローバルセキュリティ研究所所長。公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、株式会社パソナグループ取締役会長などを兼職。主な著書に
『日本大災害の教訓―複合危機とリスク管理』(共著、東洋経済新報社)、
『経済古典は役に立つ』(光文社新書)など多数。