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memo ∞ 「石油供給増、産油国に難題/スタンフォード大 Ian Bremmer」

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石油供給増、産油国に難題 イアン・ブレマー ユーラシア・グループ社長 :日本経済新聞

<ポイント>
○技術進歩で資源不足懸念薄れ力関係が変化
○米とカナダのエネルギー政策が世界に影響
○国家主義的な南米諸国も政策転換の可能性

   

 

 いわゆる「開発困難な石油」の掘削が可能になり、世界の市場は様変わりしつつある。開発困難とは、採掘技術が高コストあるいは複雑であったり、政治的または地理的条件により採掘が難しかったりすることを意味する。特に米国で、技術進歩により頁岩(けつがん=シェール)や砂岩の隙間に貯留された原油(タイトオイル)の生産が急増し、今後も有望と見込まれる状況は、産油国の政策当局にとって新たな難題となっている。

 原油需要が伸び悩む中で新たな供給源が登場したことで、資源不足を懸念する必要が薄れ、力関係が変化し始めている。その結果、近年過激な国家主義的資源政策を実施してきた一部の政府も、外国からの投資を呼び込むために政策の見直しを迫られよう。

 タイトオイルの生産を検討している地域を概観するだけでも、こうした変化の大きさをみてとれる。北米はこの動きの中心にあり、中東はエネルギー市場の変化を切実に感じている。ロシアはここ10年ほど、炭化水素資源(石油、天然ガス、石炭など)を厳格に統制してきたが、生産量の先細りに備えて外国から必要な技術を導入するため、地域限定で条件を緩和し始めた。

 東アフリカ大地溝帯では新資源が発見され、外国企業との交渉のノウハウを持たない政府がエネルギー産業に足を踏み入れることになった。中南米では、資源開発に介入して生産に悪影響を与える政府と、規制緩和に踏み切る政府が混在している。

 北米ではシェールガスとタイトオイルの膨大な資源が採掘可能になった結果、資源開発と活用に関して広範な政策問題が浮上してきた。米国が開発を禁じるような環境政策をとる可能性は低いが、環境対策は大きなコスト要因となり、開発する資源の選択や採算を左右する重要な要素となるだろう。

 

 

 輸送と貿易も政策上の大きな問題だ。カナダと米テキサス州を結ぶキーストーンXLパイプライン建設計画の米国側の認可が遅れているため、アジア市場への供給を狙うカナダは太平洋岸での輸出インフラ建設に積極的だ。一方、米国は液化天然ガス(LNG)の輸出をどの程度まで許可あるいは制限するか、早急に決定しなければならない。こうした中で、中国などの外国資本がカナダで利権取得を活発化させており、カナダや米国の政策当局では不安視する声もある。

 さらに精製に関しては、米国でメキシコ湾岸や東海岸を経由する軽質低硫黄原油の輸入が減っており、いずれはほぼ途絶えると予想される。これにより世界の原油取引パターンは大きく変わるだろう。

 こうした変化を背景に、世界のエネルギー市場にとって米国とカナダの政策の持つ意味が急激に高まっている。

 非在来型の炭化水素資源や開発困難な石油が注目されているが、技術的に掘削が容易でコストも低い大規模な石油埋蔵地域を開発する可能性はなお世界的に残されている。未開発の有望地域の大半は中東にあり、その中でも政府の政策あるいは政治的不安定、戦争、制裁措置などで開発が妨げられていた国に多い。

 イランは当面は経済制裁下に置かれる見込みなので、最も有望なのはイラクだが、同国の政治的混乱は今後も続く見通しだ。ここにスンニ派とシーア派の二極対立の激化、シリアの内戦、イランとサウジアラビアの関係悪化といった要素が加わる。こうした情勢の下では、石油開発の阻害要因となってきたイラク国内の紛争、特にクルド人の多い北部の紛争は早急には解決できないだろう。

 北米で非在来型の炭化水素資源の開発が進む一方で、世界的に需要の伸びの鈍化が見込まれる現状は、湾岸産油国に需要の安定確保という重大な問題も突きつけている。

 石油輸出国機構(OPEC)に対する需要が2020年までほぼ横ばいにとどまる可能性は十分にある。そうなれば加盟国のどこかで生産能力が拡大した場合、需給バランスをとるために減産で対応する必要が出てくる。

 こうした見通しは、とりわけサウジアラビアにとって頭が痛い問題である。短期的には現在の生産量が歴史的な高水準にあるうえ、イランの輸出原油が制裁で当面は市場に出てこないため、13年に減産してもそれほど大きな影響はないだろう。だが長期的にみると、市場シェアの問題はOPEC加盟国間の緊張を高める。政治的背景を考えると、この問題は特にサウジアラビアとイラクで懸念される。

 一方、ロシア政府は近年、石油生産の停滞という問題に直面している。同国は12年にサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になった。しかし、20年までに日量1千万バレル以上というプーチン大統領の掲げた生産目標を達成するには、開発困難な埋蔵地域からの生産を大幅に拡大し、旧ソ連時代に枯渇した油田の先細りを補わなければならない。

 具体的には東シベリア油田、西シベリアのタイトオイル、北極圏の海底油田の開発が必要だ。そのために外国資本を呼び込むには、大幅な減税と優遇税制の導入が欠かせない。だがロシアは歳入の半分近くを石油・ガスの税収に頼っており、税制改革は痛みと危険を伴う。政府は広範な改革を先送りしてきたが、生産量落ち込みの危険は差し迫っている。15年までに開発困難な石油の生産を開始したいのならば、石油部門の改革を強力に推進しなければならないだろう。さらに17年までには大陸棚油田開発のための抜本的な税制改革が必要だ。

 アフリカや中南米地域に目を転じてみよう。ケニアでは、東アフリカ大地溝帯に有望な油田が散在しており、外国資本の主な流入先となっている。政治情勢、規制環境、地理的条件などは南スーダンやウガンダよりも開発に有利である。ただ、今年3月に予定されている総選挙後も、国内の政治対立や安全面の不安は残るだろう。

 この地域では近年新たな埋蔵資源が見つかっており、東アフリカは今後10年以内にアジア向けエネルギーハブ(拠点)になると期待される。国際石油資本や国営石油会社は関心を強めており、採掘を始めた小規模な独立系企業との提携や買収を模索している。ウガンダとケニアは今後3〜5年で新たな石油輸出国となるだろうし、コンゴ民主共和国とエチオピアの地理的条件が似た地域も大いに有望だ。

 中南米は開発困難な石油に関して多様な可能性を秘めている。ブラジルのプレソルト層(海底下の岩塩層)、アルゼンチンのバカ・ムエルタ・シェールオイル層、ベネズエラの重質油などだ。しかしこの地域には投資や開発の足を引っ張る要因が存在する。特に問題なのは大半の国にみられる資源ナショナリズムだ。最近ではアルゼンチンがスペイン石油大手レプソル傘下のYPFを国営化したほか、ブラジル政府も政府主導の産業政策で開発を進める方針だ。

 とはいえ、成長鈍化が予想される中で、各国政府は外国資本の導入を迫られており、中南米の石油・ガス産業を取り巻く環境は徐々に改善されるだろう。

 ベネズエラは、病気静養中のチャベス大統領の後継者を選ぶ選挙が今年実施されるかどうか次第だ。仮に選挙で野党が勝利することになれば、おそらく新政権は産業寄りの規制政策を採用するだろう。アルゼンチンでは、エネルギー政策は引き続き政府のマクロ経済目標に縛られる見通しだが、長期的には事態は好転しよう。ブラジルでは、現在のやや政府主導型の探鉱・開発方針が大幅に変更されるかどうかは、今後2〜3年の石油生産動向次第だろう。

 本文執筆にあたっては、ユーラシア・グループエネルギー・天然資源担当ディレクターのロバート・ジョンストン氏の協力を得た。

 

 Ian Bremmer 69年生まれ。スタンフォード大博士

 

 原文(英文)は電子版(Web刊→紙面連動)に。


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