自分の周辺はどんな強みが在りそうですか?
台湾が学ぶ意外な日本企業 失われた20年に隠れた強み 環境や介護、中国で商機 :日本経済新聞
世界市場で韓国企業の後塵(こうじん)を拝すばかりの日本企業にもまだ学ぶべき点はある――。中国での事業展開を目指す台湾企業の視察団が11月に日本を訪れた。訪問先には京セラなどの大手のほか、意外な企業も含まれていた。巨大市場を見据える台湾企業が日本で注目したのはどんな企業だったのか。
最先端の植物工場へ
11月5日。週末で学生がまばらな千葉大柏の葉キャンパス(千葉県柏市)に、70人強の台湾人を乗せたバスが到着した。視察団は事業会社の経営者や金融機関の幹部、個人投資家など。訪れた目的は、天候や季節に影響されない作物栽培を目指す最先端の植物工場の見学だ。
「日本はこの分野で世界の最先端を行く技術を開発してきた」。千葉大大学院の丸尾達准教授が工場の狙いを解説した。「有機野菜は作れるのか」「一般的な生産方法と比べてコストは」――。訪問団から次々と質問が飛ぶ。質疑応答は予定をはるかにオーバーして続いた。
工場の視察後、団長で出版や投資などの事業を手がける財金文化事業の謝金河会長に感想を聞くと、「台湾企業が仲介役になり、日本の先進技術を汚染が深刻な中国に持っていくことが期待できる」と答えた。
視察団は初日に大阪・心斎橋の商店街に行き、翌日にはほっかほっか亭のハークスレイやパナホームを訪問。京都で人工歯製造の松風や京セラ、ワタベウェディングを視察後、東京ではニチイ学館やユニクロなどを回り、最後に千葉大を訪ねた。いわゆる重厚長大の製造業はない。
ユニクロを訪問後、団長の謝金河氏がバスで参加者に感想を尋ねた。スウェーデンのイケアに照明器具を提供する台湾企業の社長が答えた。「自分の会社は安いものばかり作ってきたが、高級な品物を安く作れるかがポイントだと分かった」
松風も印象に残ったようだ。「半世紀以上も守った伝統技術をコアにして、新しいものを創造している。中国企業もイノベーションを目指しているが、コア技術の蓄積が浅いために持続しないのではないか」
「日本にあるものはすべて中国にもある」。ツアーを企画したファンネックス・アセット・マネジメント(東京・千代田)の肖敏捷社長は、台湾の企業家などからこう言われてきた。そこで思い立ったのが自動車や電機などのものづくり分野から視点を変えることだった。「失われた20年に日本が先に進んだ分野もあるはずだ」。キーワードは「高齢化」「消費」「環境」など。中国市場と台湾の資本・人脈、日本の技術・ノウハウを結ぶ線が見つかった。
「安価で良質」に需要
急成長を続ける中国は環境悪化や食品汚染に直面し、少子高齢化も急速に進む。ニチイ学館の介護サービスに感心した参加者は「介護保険制度がなくても成り立つのか」と質問した。社会保障制度が未整備の中国でも成立するかを考えたからだ。
視察団が台湾に戻って3日後、ツアーの通訳を務めた投資会社社長の吉永東峰氏が参加企業に連絡を取ると、相手の反応は「4月にまた行きたい」だった。
消費市場へと変わりつつある中国では、世界中の企業が競い合う。日本企業は電機で韓国勢や中国の地場企業に押され、日本が誇る自動車でも市場を主導できない。日本はどこで強みを生かせばいいのか。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は3月に出した報告書で「日本企業がデフレ経済下で生み出した『安価で良質なもの』に対し、価格に敏感な中国の消費者のニーズが高まることが予想される」と指摘した。
ジェトロが「高度化する中国市場の売れ筋商品」として例示したのは「セコムのセキュリティーサービス」「TOTOの節水技術」「良品計画のシンプルという商品コンセプト」など。バブル崩壊後に質を重視する消費者に対応し、製品やサービスの付加価値を高めた企業が並ぶ。
中国が急成長するなか、中国人の生活様式の変化が商機になるとみれば、各国の企業も的を絞って戦力を投入する。重層的に進む中国市場の獲得競争で日本企業が持ち味を発揮することは、否定的に語られがちな日本のこの20年が決して「無為な20年」でなかったことを証明するための挑戦でもある。
(吉田忠則)