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メモ「脱原発/ドイツの選択」

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「脱原発」ドイツの選択 目標は明確、カギは効率 本社コラムニスト 脇祐三 :日本経済新聞

 日本の原子力発電所の事故を受け、ドイツ政府が「脱原発」を決めたのは昨年6月。2022年までに17基の原発をすべて止める計画にほとんどの政党が賛成し、エネルギー政策の転換が始まった。国の進路は明確だが、目標実現に向けて曲折も当然ある。ドイツの経験と直面する課題は日本に多くの示唆を与える。

 ドイツ公共放送が3月に発表した世論調査で、脱原発を支持する回答は76%に達した。「フクシマ後に国民が安全第一と考えるようになった」(ミュツェニヒ連邦議会議員)からだ。

 福島の原発事故後に8基が停止され、稼働している原発は9基。停止後に周辺国から輸入超過になった電力が昨年10月から今年にかけて輸出超過に転じた。「原発なしでも大丈夫」という空気が広がり、「すべての原発がこの春に止まりそうな日本のほうが脱原発でドイツより先行している」といった声さえ聞く。

 だが、ドイツ産業連盟のロッテンブルク・エネルギー原材料部長は「冬場が比較的暖かかった要因が大きく、寒波が来ていれば追加の電力供給源が必要になったかもしれない」と指摘する。ドイツ労働総同盟のエネルギー問題担当者も「今すぐ、信頼するに足り、ある程度の余裕がある電力供給体制が実現できるわけではない」とクギを刺す。

 独政府は脱原発に先立って20年までに発電に占める再生可能エネルギーの比率を35%に高める目標を掲げている。30年の目標は50%だ。すでに過去10年間で再生可能エネルギーの比率が3倍になり、約20%を占めるようになった。とはいえ、これをさらに高めていくためには多くの課題を克服する必要がある。

 経済・技術省のマーガー・エネルギー政策局次長は22年までの重点政策として、まず「国内に数千キロの『高圧送電ハイウエー』を整備し、風力などを用い地方で発電した電力を産業が集積する大市場に送る体制をつくること」をあげる。

 欧州では国境を越えて送電網が広がり、電力の相互融通ができる。これが再生可能エネルギーへの転換を進めやすくしている一因だが、ドイツ国内には風力発電の適地である北部と南部の大市場を結ぶ送電網の能力が小さい弱点がある。

 送電網が不十分な理由の1つは、高圧線への地元の環境団体の反対が強いこと。「脱原発を進めるには、送電網建設で政府が環境意識の強い住民の説得にもっと力を入れなければならない」(ロッテンブルク部長)皮肉な構図も見える。

 再生可能エネルギーの導入支援政策では、欧州の政府債務危機をきっかけに「費用対効果」を見直す傾向が強まった。独政府が2月に決めた太陽光発電の買い取り価格の最大3割近い引き下げには反対論も多い。

 だがレスラー経済・技術相は「補助金の半分が太陽光発電向けに費やされるのに太陽光の比率は発電量の3%にとどまる」と説明。マーガー局次長も「導入加速期を過ぎたら誘因策の見直しが必要だ」と語る。

 ブランデンブルク州トロイエンブリーツェン市フェルトハイム地区。「エネルギー自給の村」として知られる同地区を訪れると、クナーペ市長が「国に頼るのではなく、自分たちで新しい事業を興すことが重要だ」と強調していた。

 住民145人のフェルトハイムに、1基で2メガワットの発電能力を持つ大型風車が43基並ぶ。3メガワットの太陽光発電装置、豚の排せつ物を用いたバイオマスによる熱供給設備も併設して、地区の電力と暖房をまかない、余った電力は売っている。

 同地区を訪れた青年が1995年に4基の風車で始めた事業は、従業員120人の発電・エンジニアリング会社に成長した。最初は農地が分断されると抵抗した住民も協力するようになり、1人当たり3000ユーロ(約32万円)を出資して、自治体、住民も参加する共同事業を広げた。

 日本でも固定価格買い取り制度の導入に伴い、多くの地方で再生可能エネルギーによる発電が始まるだろう。クナーペ市長は「重要なのは経済性だ」「いくら環境に優しくても、赤字では事業の継続も拡大もできない」と語る。

 エネルギー政策の転換で注目されているのは「熱」だ。スウェーデンに本社がありドイツの電力大手でもあるバッテンフォールは、発電で生じる熱を暖房用に供給する事業を拡大する。

 官民共同出資の立案組織、ドイツ・エネルギー機関のユンク最高経営責任者(CEO)は「ビルや住宅の断熱目標を引き上げ、エネルギー効率を大幅に改善する政策が不可欠」と言う。

 太陽光パネル大手の経営破綻、電力大手の赤字転落など、ドイツでもエネルギー政策の転換や変更に伴うきしみは多い。それでも「政治のコンセンサスである脱原発政策は変わらないだろう」(ユンクCEO)。脱原発を前提に、「今後5年、10年と節目で政策の微調整が必要になる」とマーガー局次長は説明する。

 産業連盟は「原子力を否定すると、50年に温暖化ガス排出を8割以上減らす目標達成のための選択肢が狭まる」と主張する。コスト増と雇用減少を懸念する声も少なくない。それと同時に「将来の国際競争力のカギはエネルギー効率を可能な限り高められるか否かだ」と官民が異口同音に強調するのも、今のドイツだ。

 


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