ロボット、現場で奮闘 福島原発事故 炉内被害の把握急ぐ :日本経済新聞
東京電力福島第1原子力発電所の事故後、人が入れない原発内部でロボットが活躍している。放射線量が高い過酷な環境下でも長時間作業を続けられるロボットは、被害状況を把握する切り札として重要な役割を果たしてきた。当初は災害現場などで実績のあった米国製に頼ったが、より高性能の国産も始動。今後の廃炉作業では、さらに多様な活躍が求められている。
「予想外に破壊は小さく、水素爆発した可能性は低い」。4月18日、2号機の原子炉格納容器下部にある圧力抑制室に初めて入ったロボットの撮影画像(写真(3)〜(5))に、東電の担当者は安堵の表情を見せた。確認したのは、天井の配管を覆う保温材カバーの一部が落ちる程度の損傷。東日本大震災直後に格納容器が水素爆発したとも推測されていたが、実際の状況が確認できたのは初めてだった。
撮影したのは、トピー工業(東京・品川)が建屋内の調査用に昨秋から開発したロボット「サーベイランナー」。カメラや線量計、ICレコーダーなどを搭載。これまでのロボットよりひと回り小型で、幅が約70センチと狭い階段の踊り場でも旋回できる。
この日は、ドーナツ状の圧力抑制室の上部にある作業用通路を回り、線量や格納容器の水漏れにつながる損傷を調べた。廃炉に向け、炉心溶融(メルトダウン)して圧力容器から溶け落ちた核燃料を取り出す際に格納容器を水で満たす必要があり、水漏れしないよう損傷箇所を特定し修理しなければならないからだ。
この日は損傷箇所は見つからなかったが、今後もサーベイランナーを使った調査を続けるという。
事故後初めてロボットを原子炉建屋内に投入したのは昨年4月17日。1、3号機の建屋に入ったロボットは、内部の放射線量が人が長時間作業できない高さであることや、予想以上に建物の損傷が激しく、至る所にがれきが散らばっている様子を明らかにした。
投入したのは米アイロボット社製の「パックボット」。カメラや温度計、放射線や化学物質などを測るセンサーを搭載。がれきや斜面を乗り越えて移動でき、アフガニスタンなど紛争地域や米同時多発テロなどでの実績があった。
パックボットは1〜3号機の原子炉建屋1階の現場確認作業(写真(7))を担い、事故直後の調査活動を支えた。
過酷な環境下での活動経験のなかった国産ロボットは後れを取ったが、昨年6月下旬、千葉工業大学などが開発した「クインス」が国産として初めて建屋内を調査した。火山噴火や地下鉄テロ時の調査活動などを想定して開発したものを、原発内で使うために大きさを変え、高放射線量に耐えうるか確認したものだ。
パックボットと同様、線量や温度、湿度などの測定や撮影を担うが、階段の上り下りや障害物をくぐり抜ける機動性に優れ、パックボットが入れなかった建屋2〜5階の調査(写真(2))ができるようになった。このデータが、昨年12月に政府が「冷温停止状態」を宣言した際の判断の根拠となった。
一時は調査中に通信が途切れ、活動を中断していたが、千葉工大が今年1月末に2、3号機を開発。2月末には2号機の建屋5階に上り、使用済み核燃料プールの北側や原子炉上部周辺を調査した(写真(6))。
1〜4号機の中で早期に使用済み核燃料プールからの燃料の取り出しを始める計画の4、3号機では、水中カメラでプール内を撮影(写真(1))。取り出しに向けた準備が進んでいる。