邦銀最大級のイスラム金融 三井住友銀、サウジに600億円 欧州銀の縮小で好機 :日本経済新聞
【ロンドン=上杉素直】三井住友銀行は、サウジアラビアの空港事業に対する7億5000万ドル(約600億円)相当の融資をイスラム金融方式で組成した。通常の融資との組み合わせではない純粋なイスラム金融による邦銀主導の案件としては最大規模とみられる。ユーロ危機を背景に欧州系銀行が慎重姿勢に転じる中、イスラム教国の教義が禁じる利子の受け払いを回避するイスラム金融で中東での存在感を高める。
融資対象はイスラム教の聖地のひとつであるメディナへの玄関口になる同空港の拡張事業。イスラム圏の経済成長を受けた巡礼者の増加に対応し、今後数年で利用可能客数を年800万人へ倍増させる計画だ。事業総額12億ドルのうち、関係者からの出資で集めた分を除く7億5000万ドルを銀行融資で賄った。
三井住友銀は事業者側の金融窓口であるフィナンシャルアドバイザー(FA)として融資組成を主導。サウジアラビアの地元金融機関3行による協調融資をこのほどまとめた。今回は資金の出し手が物件などを買い、使用者に転売する形をとって金利の存在を回避する「イスティスナ」と呼ばれる手法を応用して、イスラム金融専業の銀行も呼び込んだ。
欧州では政府債務危機の銀行部門への波及が懸念され、厳しい資本規制を課された大手行は融資余力を失っている。欧州銀は中東ビジネスも縮小傾向にある。三井住友銀は中東勢と直接やり取りしながら事業を伸ばす好機と判断。協業拡大に向けてイスラム金融の専門チームを行内に置いた。
邦銀のイスラム金融の取り組みとしては、三菱東京UFJ銀行が今春、ブルネイ政府系の海運会社に総額1億7000万ドルの協調融資を組成した。みずほコーポレート銀行もマレーシア拠点で体制を強化中。三井住友銀がイスラム教の聖地での大型案件を手がけたことで、イスラム金融の世界で邦銀の知名度が高まる効果も期待される。
▼イスラム金融 イスラム法に則した金融取引の総称。教典「コーラン」で利子の受け取りが禁じられているため、金利の概念を使わない。教義に反する豚肉やアルコールに関する取引は認められない。債券に近い性質をもつ有価証券「スクーク」、リース取引に似た「イジャーラ」など様々な手法がある。イスラムマネー拡大で取引が膨らみ、残高は1兆ドル規模と推計されている。