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朝日新聞デジタル:〈風〉イスラエルの震災支援 無人機の進言に恩返しの心
石合力・中東アフリカ総局長
石合力(中東アフリカ総局長、東京から)
7月末、日本に一時帰国した際、イスラエルのベンシトリット駐日大使から、こんな話を聞いた。
昨年3月、東京電力福島第一原発の事故が起きた際、日本政府に対し、イスラエル製無人機の活用をいち早く進言していたというのだ。
中東のシリコンバレーとも言われるハイテク国家イスラエルは「テロ、治安対策」から無人機の開発を進め、米国と最先端を競う。映像情報を送る昆虫大の超小型機。路上の不審物を破壊する小型戦車。イスラエルと敵対するイスラム勢力ハマスの幹部らを上空から識別し、その場で暗殺できる攻撃機もある。
大使によると、3・11から数日後、以下の無人機の活用を申し出たという。
(1)原発上空から撮影と放射能測定ができる小型航空機
(2)原発内部に入り、映像を撮影できる小型車両
(3)原発に冷却水を注入する配管を上空から敷設するためのヘリコプター
「国家の非常時にあらゆる手だてを尽くすのは当然のこと。日本政府関係者は皆、考えに賛同してくれた。でも、だれも使うことを決断しなかった」と大使は振り返る。
経緯を知る外務省高官によると、首相官邸の対策チームに大使からの非公式の打診として伝えたが「必要性はない」との結論だったという。
確かに事故直後から、米空軍の無人偵察機グローバルホークが上空から原発を撮影していた。ただ、同機に比べ、小型無人機ならはるか近くに接近できる。そのころ、原子炉を冷却するため、東京消防庁の職員らは地上から、自衛隊の有人ヘリは上空から、文字通り命がけで水をまいていた。無人ヘリを使って、外部と原子炉をつなぐ注入管を敷設できたならば、事態は違っていたのではないか……。
輸送時間や技術的な問題を含め、仮定の話である。無人ヘリによる配管作業の可能性について、この高官は「聞いた覚えがない」と話す。そもそも、日本にも無人機技術はある。日本製の無人機や小型車両による原発の上空、内部の撮影は、その後実現した。大使はいう。「こちらが伝えたアイデアが2週間くらいたってから、実行された」
70年代の石油ショックと、産油国のボイコット戦略を恐れて、控えめだった日本の対イスラエル外交は1993年のオスロ合意で中東和平が動き始めてから変わった。「アラブか、イスラエルか」ではなく、「アラブともイスラエルとも関係を強化する」方向に舵(かじ)を切った。米国の同盟国イスラエルと積極的な情報共有をすすめ、情報機関モサドと日本の内調(内閣情報調査室)は、トップ同士が会う関係にある。今年は、両国の国交樹立60周年。その関係は非常時に、どこまで生かされたのだろうか。
イスラエルが真っ先に手をさしのべた理由は外交戦略上の利害だけではないはずだ。第2次大戦中、リトアニアの領事館でユダヤ人約6千人に日本の通過ビザを発給した外交官杉原千畝(ちうね)。「日本のシンドラー」スギハラの名前は、エルサレムのホロコースト博物館に残る。
「スギハラの恩返し」は無人機提供としては実現しなかった。ただ、無人機とは別に、大使が日本側に申し出た医療支援は、宮城県南三陸町で例外措置として認められ、イスラエル軍医療団約50人の活動として実現した。