【七草がゆ】七難から抜けだし立ち上がる年へ/安全な古里の幸を届けようと汗する人の心を大事に : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)
さらさらした白かゆに、刻んだ七草を加えてさっと炊く。「さっぱりと春を食べた気になる」と明治生まれの作家、中里恒子さんがエッセーに残す。ごちそう続きの正月から、普段の暮らしに切り替えていく。背筋が伸びるような湯気の香である▲鉄分が豊富なセリに、利尿作用のあるナズナ。スズナやスズシロは消化を助けるという。塩味を利かせたかゆに、程よい苦味が合う。なるほど、疲れた胃が喜んでいるのが分かる▲七つで一そろえといえば他にもある。虹は七色、一週間は七日。七福神に、七つ道具も。一つ一つの輝きは限られていても、七つととのえば新たな意味を紡ぎ出す。つながりの妙を感じさせてくれる▲晩年の正岡子規が随筆に記した七草にはもう一つ、「優しさ」という効能が加わる。正月、病床に伏す身に弟子が届けてくれたのは、七草の寄せ植え。一草ごとに小さな名札が添えてあったという。「生きて」というエールを、子規はかみしめたに違いない▲きょうは七草の日。野で摘む風情には及ぶべくもないが、スーパーで季節感を買えるのがうれしい。七難から抜けだし立ち上がる年へ。心も切り替え、初春の幸をいただこう。
きょうは五節句の一つ「七草」だ。もともとは田のあぜなどに生える野草を使ったが、今はかゆ用にセットで販売している。県内では今年、放射性物質への消費者の不安を取り除こうと腐心したスーパーがある。
これまで長く地元の農家から仕入れてきた。「安全」を求める声が上がる。一時は県外産を増やそうとも考えた。地域と共に歩む店舗として、風評被害に苦しむ農家も応援したい。そこで、検査済みの県内産と、県外産の乾燥物の両方を用意した。消費者と生産者双方の思いを酌んでの品ぞろえだ。県内産には産地も明記した。
原発事故の影響は、長く受け継がれてきた風習にも及ぶ。行政の検査は口にする機会が多いコメや野菜、果物などを優先する。後回しになった食材は作り手や売り手が独自に測ったり、検査を依頼したりしてきた。自助努力が古里の食への信頼にもつながっている。
七草発祥地の中国では1月7日を「人日[じんじつ]」と呼ぶ。人の命を大切にする意味だ。天気が晴れならこの1年、幸があるとされる。たとえ日が差さなくても、案じるまい。安全な古里の幸を届けようと汗する人の心を大事にしながら、かゆをいただくとしよう。
春の七種
春の七種とは以下の7種類の植物である。
春の七種 七草がゆ画像よみ
名称現在の名称英名科名 せり
芹 セリ Water dropwort セリ科 なずな
薺 ナズナ(ぺんぺん草) Shepherd's Purse アブラナ科 ごぎょう
御形 ハハコグサ(母子草) Cudweed キク科 はこべら
繁縷 ハコベ(蘩蔞) chickweed ナデシコ科 ほとけのざ
仏の座 コオニタビラコ(小鬼田平子) Nipplewort キク科 すずな
菘 カブ(蕪) Turnip アブラナ科 すずしろ
蘿蔔 ダイコン(大根) Radish アブラナ科
(「仏の座」は、シソ科のホトケノザとは別のもの)
この7種の野菜を刻んで入れたかゆを七草がゆといい、邪気を払い万病を除く占いとして食べる。呪術的な意味ばかりでなく、御節料理で疲れた胃を休め、野菜が乏しい冬場に不足しがちな栄養素を補うという効能もある。
七種は、前日の夜にまな板に乗せて囃し歌を歌いながら包丁で叩き、当日の朝に粥に入れる。囃し歌は鳥追い歌に由来するものであり、これは七種がゆの行事と、豊作を祈る行事が結び付いたものと考えられている。歌の歌詞は「七草なずな 唐土の鳥が、日本の土地に、渡らぬ先に、合わせて、バタクサバタクサ」など地方により多少の違いがある。
七種の行事は「子(ね)の日の遊び」とも呼ばれ、正月最初の子の日に野原に出て若菜を摘む風習があった。『枕草子』にも、「七日の若菜を人の六日にもて騒ぎ……」とある。
これらは水田雑草ないし畑に出現するものばかりである。おそらく水田周辺で摘まれたと思われる。