研究室(Laboratory):無機系先進材料分野
半導体ナノ構造を利用した機能性材料の開発
1次元半導体ナノワイヤおよび0次元半導体ナノ結晶を利用した高効率太陽電池、高容量Liイオンバッテリ等の次世代エネルギー材料および高速・低消費エネルギートランジスタ材料開発のための研究を行っている。
担当教員:深田 直樹
http://www.nims.go.jp/
独立行政法人物質・材料研究機構 | NIMS
太陽電池、発電量100倍 :日本経済新聞
物材機構、シリコン素材の形状工夫
物質・材料研究機構の深田直樹グループリーダーは、シリコン太陽電池の発電量を100倍に増やす新構造の太陽電池を開発した。電池の表面にシリコン材料のミクロの棒を剣山のように無数に並べ、太陽光が当たる面積を増やす。発電量が一定ならば太陽電池の面積を100分の1にできる計算で、屋根に取り付けた5メートル角の電池が50センチ角以下になる。設置場所を選べ、メンテナンスもしやすい。5年後の実用化を目指す。
新開発の太陽電池は表面部分に直径約90ナノ(ナノは10億分の1)メートル、長さ約5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの棒状シリコンが約100ナノメートル間隔で立つ。
こうした構造によって、これまで無駄にしていた波長約600ナノメートル以下の光も電気に変換できるようになったという。
計算では、シリコン材料を平らに積み重ねる従来の同面積の構造に比べ、発電量が100倍になった。
小さな太陽電池で一定量の発電ができるようになれば、太陽の方角を追尾する装置に組み込むなどの使い道が広がる。
1/50000mmの直径のシリコンナノワイヤ中で不純物の挙動を捕らえることに成功−次世代縦型トランジスタおよびナノワイヤ太陽電池材料の実現に向けて−
1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝、以下NIMS)、国立大学法人 筑波大学(学長:山田 信博)は、次世代半導体材料として注目されているシリコンナノワイヤ(直径20nm以下)において、キャリア制御のために導入した不純物の状態を非破壊・非接触で検出することに成功し、その挙動を捕らえることにも初めて成功した。この成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(拠点長:青野 正和)の深田 直樹 独立研究者らのグループおよび筑波大学の村上 浩一 教授のグループによって得られた。
2.現在の半導体トランジスタ材料の主流はシリコンであり、性能向上のためにそのサイズが年々縮小化されている。しかしながら、リーク電流の増大、発熱の問題等により、集積化と性能向上の両立には限界が近づいている。その解決策として、1次元のナノワイヤ構造に注目が集まっている。
3.1次元構造のシリコンナノワイヤをトランジスタ材料として利用するためには、キャリア制御(pn制御)のための不純物ドーピングが重要であり、ドープされた不純物の状態と挙動を如何にして調べるかが実用上重要な課題であった。最近では、ナノワイヤを利用した次世代高効率太陽電池材料の開発にも注目が集まっており、ナノ構造体中の不純物の状態・挙動の理解が急務であった。
4.我々は、独自に確立した半導体ナノ構造体中の不純物の状態評価法を利用することで、キャリア制御のために導入したドーパント不純物の挙動をシリコンナノワイヤにおいて初めて検出することに成功した。p型不純物のボロンとn型不純物のリンの挙動は全く異なり、ボロンは絶縁膜である酸化膜へ出やすいことを明らかにした。また、応力の利用で挙動を制御できることも示した。
5. 今回明らかとなった不純物の挙動、特にボロンが絶縁膜側へ出やすいと言う現象は、表面の割合の高いナノワイヤを次世代トランジスタに採用する上で解決すべきものである。本研究では、ナノワイヤへの応力制御が1つの鍵を握ることも明らかにし、次世代トランジスタの実現へ一歩近づけたと言える。また、本評価手法は、太陽電池の評価手法としても期待できる。
6.本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」領域(研究総括:佐藤 勝昭)における研究課題「縦型立体構造デバイス実現に向けた半導体ナノワイヤの開発」(研究代表者:深田 直樹)の一環として行われた。なお、本研究成果は、「NANO Letters誌」(アメリカ化学会発行)に近日中に掲載される予定である。
<研究の背景>
現在の半導体トランジスタ材料の主流はシリコンであり、性能向上のためにそのサイズが年々縮小化されている。しかしながらこのままの状態で縮小化を進めようとしても、リーク電流の増大、発熱の問題等により、更なる性能向上は見込めない状況まできている。1次元のシリコンナノワイヤをキャリアの通り道であるチャネルに利用することで、従来の平面型ではない縦型立体構造を有するサラウンディングゲートトランジスタ(Surrounding Gate Transistor:SGT)注1)等の実現が可能になる。このSGTの特徴は、デバイス占有面積を数十分の1にすると言う画期的な次世代デバイスで、実現すれば低消費電力で、10倍以上の高速・高集積化が期待できる。シリコンナノワイヤをトランジスタ材料として利用するためには、キャリア制御(pn制御)のための不純物ドーピングが重要であり、ドープされた不純物の状態と挙動を如何にして調べるかが重要な研究課題であった。
また、クリーンエネルギーの代表である太陽電池の開発においても、pn制御が必要不可欠である。最近では、ナノワイヤを利用した次世代高効率太陽電池材料の開発も注目されており、ナノ構造体中の不純物の状態・挙動の理解が急務であった。
<研究成果の内容>
これまで、ナノ構造体中の不純物の状態に関しては、いくつかの評価手法が紹介されてきたが、ナノ構造体中の不純物の挙動に関しての報告例は全くなかった。本研究では、シリコンナノワイヤを成長する際に不純物としてボロン(B(元素記号):p型不純物)およびリン(P(元素記号):n型不純物)をドーピングした。我々が独自に確立した、ドーパント不純物の化学結合状態と電子状態(電気的活性度)の両方を同時に検出できるラマン分光法注2)(不純物の局在振動注3)およびファノ共鳴注4)を利用)および伝導電子シグナルを利用した低温での電子スピン共鳴注5)法によって、ドーパント不純物の熱酸化過程での挙動を1次元シリコンナノワイヤ中において初めて検出することに成功した(図1)。具体的には、Bは絶縁膜である表面酸化膜側へ偏析しやすく、Pは逆にSi側に留まりやすいことを明らかにした。また、ナノワイヤへ応力を誘起することにより、Bの酸化膜側への偏析を抑制できることも明らかにし、不純物の拡散制御に歪エンジニアリングが有効であることを示した。
<波及効果と今後の展開>
半導体ナノ構造を利用した新規デバイスの実現にはナノ構造体の機能化が重要である。機能化のためにナノ構造体中に微量に添加された不純物の状態・挙動を評価し、そこからデバイスの機能を最大限に引き出すための制御に繋げることが技術革新の鍵となる。
今回得られたシリコンナノワイヤ中での不純物の挙動と析出制御に関する知見は、シリコンナノワイヤをチャネルに用いた将来の3次元トランジスタを実現する上で非常に重要な情報になると期待される。更に、今回用いた評価手法は、シリコン以外の半導体材料、例えば、シリコンに代わる次世代のトランジスタ材料として最も注目されているゲルマニウムに対しても適用可能である。ゲルマニウム中の電子・正孔の移動度はシリコン中に比べて2〜4倍と高いため、シリコンをゲルマニウムに置き換えることで、構造・材料の両面で現在のシリコントランジスタの性能を凌駕できる新しい高速デバイスの実現が期待できる。その達成には、ゲルマニウムナノワイヤ中の不純物を評価する手法が重要であり、そこにも我々の技術が応用可能である。
また、本研究の知見と評価技術は、クリーンエネルギーの代表であり、今後ますます重要となる太陽電池の研究開発の場でもその活用が期待される。Si系の太陽電池では、不純物ドーピングにより形成されるpn接合の制御が最も重要であり、不純物の評価なくしては変換効率の更なる向上は困難である。特に最近では、シリコンナノ構造体を機能的に複合化した安価で環境負荷の小さい高効率太陽電池材料の開発が注目されており、ナノ構造体中の不純物の評価技術に関する産業面での本成果の波及効果は高く、クリーンエネルギーの開発に寄与できるといった面でも意義のある成果と言える。
<参考図>
図1 (a)シリコンナノワイヤ中の不純物の偏析挙動の様子と、(b)ナノワイヤの縦型トランジスタおよび太陽電池への応用例
<用語解説>
注1) サラウンディングゲートトランジスタ(Surrounding Gate Transistor:SGT)これまで平面に形成していたトランジスタを円柱形の縦型立体構造にして、占有面積を数分の1にすると言う画期的な次世代半導体である。この構造では、ゲートからの電場をチャネル周りの全ての方向から加えることができるため、チャネル中のキャリア密度を効率的に制御できる。実現すれば低消費電力で低コスト、10倍以上の高速・高集積化が期待できる。注2) ラマン分光物質に光を入射させたとき、その散乱光の中に物質に固有の周波数だけずれた成分が含まれる減少をラマン効果と呼び、入射光としてレーザー光を用いて、顕微鏡を利用してミクロンオーダーの領域を顕微分光する測定を顕微ラマン分光と呼ぶ。注3) 局在振動物質中に原子番号の異なる異種の原子が存在する場合、周りの原子と質量数が異なるため、その異種原子は周りの原子の振動(フォノン)とは異なる周期で振動する。この振動を局在振動と言い、ラマン散乱測定等で局在振動ピークとして観測される。観測された局在振動ピークの位置から、不純物原子の結合状態に関する情報を得ることが出来る。注4) ファノ共鳴シリコン中でアクセプタとなるB原子を高濃度にドーピングした場合、価電子帯内での連続的なレベル間での遷移と、離散的なフォノンのレベルとのカップリングによって干渉が生じる。この干渉をファノ効果と呼び、ファノ効果の結果、シリコンの光学フォノンピークが非対称ブロードニングを起こす。ファノ効果が現れるということは、価電子帯内に多数のキャリアが生成していることの証拠であり、光学フォノンピークに現れる非対称ファノブロードニングを解析することで、電気的に活性な不純物濃度を定量することができる。注5) 電子スピン共鳴外部から磁界を作用させた場合に、不対電子がスピンの磁気モーメントによって特定の周波数の電磁波、主にマイクロ波を吸収する現象をいう。シリコン中にドープされたリンのドナー/伝導電子はスピンを持つため、電子スピン共鳴を利用してリンの結合・電子状態を評価することができる。
<論文名>
“Segregation behaviors and radial distribution of dopant atoms in silicon nanowires”
<お問い合わせ先>
<研究内容に関すること>
深田 直樹(フカタ ナオキ)
独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 独立研究者)
Tel:029-860-4769 Fax:029-860-4794
E-mail:
<JSTの事業に関すること>
原口 亮治(ハラグチ リョウジ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067
E-mail:
<報道担当>
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